研究概要 |
我々は,慢性心房細動の外科治療に際し,より低侵襲な術式である肺静脈口隔離術を考案したが,最小の侵襲で施行可能な慢性心房細動の手術術式の完成のためには,簡易な電気生理学的検査に基づいたアブレーション部位の決定が最も望まれる. 今回の研究では,まず手術中に簡易に行える新しいマッピングプローベを開発して術中マッピングに応用し,これによって得られた心房細動中の術中電位を,これも今回改良を加えた電位のスペクトル解析を応用したリアルタイム電位解析システムにより処理し,臨床症例の積み重ねを行った.このシステムによる検査の安定化をまず計り,臨床的意義のある心房部位や電気的な特異点を絞り込むための検討を行った.具体的には,心房の解剖学的固定部位である大静脈基部(上下大静脈,左右肺静脈入口部)に脱着可能な簡易型プローベにより,心房細動症例の開心術中に心房電位を採取し,術中判断が可能かどうかを判定した.ここから,規則性の高さなどの心房細動の特徴を表す電位パターンと部位を絞り込んだ.これらの症例には,我々が現在までの蓄積により理論的に考案した電気的隔離線(ハイブリッド法)を置いたが,術後の心房細動の消失と電位パターンの関連も調査した. 結果的に,簡易マッピングシステムにより観察に耐えうる心房電位が得られることが確認された.興奮波の観察においては,規則性の高い興奮部位が約50%の症例でみられ,採取部位は肺静脈入口部が主であった.手術により術後心房細動が消失しなかった例では,採取された電位のほとんどで電位自体が判読困難なほど低く,規則性もみられなかった.また,術後右房の上位に木安定な心房頻拍を合併した例では,術中の規則的な電位が下大静脈から得られた例であった. 本研究により開発された簡易マッピング法は有用と考えられたが,心房細動のように混沌とした電位の解析は,さらに多くのデータの蓄積と解析法の開発が重要と思われ,今後の課題としてあげられた.
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