研究概要 |
我々は肺癌細胞株または腫瘍組織をヌードマウスに移植し,癌転移モデルを作製した.主腫瘍における癌転移抑制遺伝子と血管新生の発現に関して包括的検討を行い,MRP-1/CD9発現減弱,及びKAI1/CD82発現減弱,E-cadherin発現減弱が,それぞれ肺転移に関与していることが認められた.血管新生因子では,VEGF-A発現とinterleukin-8発現が腫瘍内血管新生に関与していた.HGF-cMet系は肺癌では血管新生との関連はみられず,腫瘍増殖能への関与が認められた(Br J Cancer 2004).cDNAマイクロアレイによる網羅的解析により,MRP-1/CD9導入により,Wnt1とWnt5aなどのWntシグナル系の抑制(Oncogene 2004)とWAVE2の発現抑制が認められた(Oncogene 2006).更に,Wnt1発現はVEGF-Aの腫瘍内発現に,Wnt5a発現はVEGF-Aの間質内発現に関与していることも認めた(J Clin Oncol 2005).MRP-1/CD9導入によるWnt標的蛋白VEGF-Aの発現減弱を認めたことより,MRP-1/CD9導入と血管新生阻害剤の併用療法における相乗効果が今後期待される.そして我々は癌転移モデルを用いて,癌転移抑制遺伝子ベクターによる遺伝子治療と血管新生阻害剤の併用療法について研究した.アデノウィルスベクターを用いたMRP-1/CD9導入とKAI1/CD82導入は,それぞれの発現減弱腫瘍に対して,肺転移抑制効果が認められた.血管新生阻害剤TNP-470とCGS27023Aも,共に癌転移モデルにおける肺転移抑制がみられた.特にTNP-470は腫瘍増殖抑制もみられたが,副作用として体重減少がみられた.しかしながら,癌転移遺伝子治療と血管新生阻害剤の併用をそれぞれの組合せで検討したが,現在までのところ併用療法の相乗効果を認めることはできていない.
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