研究概要 |
本研究は,(1)側頭葉てんかん(TLE)焦点に対する手術中に,様々な選択的切除や離断による皮質脳波の変化を検討して,てんかん性発射の発生機構を解明すること,(2)側頭葉内側のてんかん原性を抑制するのに必要な最小限の切除または離断方法を決定し,より低侵襲な機能温存的治療法の開発に繋げること,を目的とした. 本研究期間中に,24例のTLEに対して術中脳波を測定しながら手術を行った.萎縮の明らかな海馬に対しては切除術を行い(5例),萎縮のない海馬に対しては術中脳波に基づいて,新しい機能温存的手術法である海馬多切術(HT)を加え(19例),以下の知見を得た. (1)海馬脳室面からは主に陽性棘波が記録され,大脳皮質とは錐体細胞の配列方向が逆である為と推察された.但し,陰性棘波も観察され,海馬支脚や歯状回起源の可能性が考えられる.海馬と海馬傍回の棘波は同期するもの,独立するものがあり,前者では海馬傍回が先行することが多い.同期にも潜時のある同期とない同期があり,前者では,シナプスを介した波及が,後者は容積伝導効果が考えられる.これらの棘波は側頭茎離断による影響は受けない.海馬外側の広汎な離断により同期性棘波は消失するが,元々独立した棘波がある場合は各々に残存棘波がみられ,各々にてんかん原性が存在する可能性が示唆された.海馬采を温存したまま,海馬長軸に垂直に離断を加える(HT)と,海馬棘波は消失するが,内側一外側に完全な離断が行われていない場合は棘波が残存しやすい. (2)HTの発作抑制効果は,少なくとも短期成績は切除術と同等であり,充分期待できるものである.言語性記銘力については,術前値が良好で言語優位側手術後には明らかな低下を来すが,6ヶ月後には術前レベルに回復する.手術部位の局所糖代謝や局所血流は6ヶ月後にも低下したままであり,術前と同様の神経構造や回路において機能回復するのか,術前とは異なる神経構造や回路が動員されるのかに関する今後の検討が必要である.
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