研究概要 |
椎間板ヘルニアにおける腰部神経根性疼痛の発現には,ヘルニアによる神経根の機械的な圧迫だけでなく,プロスタグランディンやセロトニン(5-HT),炎症性サイトカインに代表される種々の生理活性物質が関与している。シクロオキシゲナーゼ(COX)はアラキドン酸カスケードにおける重要なキーエンザイムであるが,近年になってCOX-1とCOX-2の亜型が存在することが明らかとなった。炎症部位においてはCOX-2が主に関与していると考えられているが,従来の非ステロイド性消炎鎮痛薬はCOX-1,COX-2双方を同時に抑制するものであり,疼痛発現過程におけるCOX-1とCOX-2の役割については一定の見解が得られていなかった。臨床的に椎間板ヘルニアは60〜70%保存療法で治癒すると報告されているが,疼痛やしびれの難治例も少なからず存在する。本研究は椎間板ヘルニアの治療に有用なCOX阻害剤の投与方法ならびに新しい治療薬の可能性を探ることを大きな目的とした。具体的には椎間板ヘルニアの動物モデルを用いて,COX-1選択的阻害剤,COX-2選択的阻害剤,5-HT2A受容体阻害剤の神経因性疼痛抑制効果を検討した。本研究で得られた成果は1.L4,L5神経根上に尾椎から摘出した髄核を留置して神経根性疼痛を惹起するモデル(髄核留置モデル)を用いて,COX-1選択的阻害剤,COX-2選択的阻害剤を術後3-7日目に投与するとアロディニアを有意に抑制すること,2.選択的5-HT2A受容体拮抗薬である塩酸サルポグレラートがアロディニアを有意に抑制すること,以上の2点を明らかにしたことであり,特に塩酸サルポグレラートが椎間板ヘルニアにおける新たな治療薬となりうる可能性を示したことである。しかしながら,当初の主要な目的であった神経因性疼痛の発現過程におけるCOX-1選択的阻害剤,COX-2選択的阻害剤の効果の違いについては有意差が得られず,より研究目的に適した動物モデルを改良する必要性など,課題を残した。
|