研究概要 |
岡山大学では平成10年10月に日本で初めての生体部分肺移植を施行し成功して以来、平成19年3月までに55例の肺移植を施行し、51例が現在生存している。この成績は日本のみならず世界的にも最高である。しかしながら、多くの症例において術中の移植直後から術後数日間にかけて虚血再灌流傷害が原因と考えられる呼吸不全が発生し、人工呼吸療管理が必要となっている。我々の研究目的は,肺移植後の虚血再灌流傷害における炎症性サイトカインと好中球エラスターゼの移植前,移植肺への再灌流直前・直後,移植後の血中濃度の変動を測定し、移植肺の病態と治療効果を検討し,再灌流傷害の原因を探索することである。さらに、人工心肺を使用した場合には移植後の呼吸機能は明らかに低下する。人工心肺の使用が再灌流傷害を増悪することが予測されるため、人工心肺の影響の検討も行った。両側生体部分肺移植患者に対し,高用量フェンタニルとベクロミウムを用いた全身麻酔を施行した。ドナーに対してば、移植肺の摘出直前にヘパリン300単位/Kgとメチルプレドニゾロン10mg/Kgを静脈内投与した。移植肺の再灌流直前よりメチルプレドニゾロン30mg/Kgを静脈内投与し瓦0の吸入(15ppm)を開始した。麻酔導入後,再灌流直前,再灌流直後,麻酔終了後,移植後1日目の5点において血中インターロイキン2,6,8,10とtumor necrosis factor-alpha(TNF-α)、好中球エラスターゼを測定した。インターロイキン6と好中球エラスターゼの血中濃度は術中の人工心肺中に有意に上昇し、好中球エラスターゼは移植後も高値が持続し、インターロイキン6は人工心肺終了後さらに血中濃度が上昇した。一方、血中TNF-α、インターロイキン2,8,および10は移植前後で有意の変動を示さなかった。人工心肺の使用時間や虚血時間はインターロイキン6や好中球エラスターゼの血中濃度と相関は示さなかった。注目すべき点は、インターロイキン6の血中濃度が人工心肺と再灌流により2段階に増加していることである。肺移植後の炎症性サイトカインの中でインターロイキン6は中心的役割を演じていることが判明し、今後はインターロイキン6の上昇を抑制することにより、肺移植における虚血再灌流傷害が軽減する可能性が示唆された。組織傷害性が高い好中球エラスターゼに関しては、再灌流そのものによる血中濃度上昇は認められず、人工心肺による上昇が主体であることが判明した。このこと二与って、好中球エラスターゼ阻害薬を再灌流時に使用する施設もあるが、肺傷害を軽減する目的でエラスターゼ阻害薬を使用するのであれば人工心肺中からの使用を考慮すべきであることが判明した。
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