研究概要 |
原発性手掌多汗症に対する確実な手術と良質な手術適応基準を作成する目的として,胸腔鏡下交感神経遮断術(ETS)の術中モニタリングについて研究した.両側の交感神経幹を第2・第3胸椎(肋骨)レベルで電気焼灼するETSを行い,術中に胸部來感神経幹を直接電気刺激して得られる交感神経皮膚反応をモニタした.また,本手術により患者のQOLはどのように改善しているかを36項目からなる健康関連尺度であるSF-36を用いて調査した(手術41例,うちSF-36は15例). 手術は41症例中,39症例で両側の交感神経幹の遮断が可能であった.2例は肺の癒着のため片側のみの施行であった.交感神経遮断を行った手掌の発汗は全例で良好な発汗停止が得られ,代償性発汗は全例治療を必要とせず,重篤な合併症は認めなかった. 交感神経皮膚反応はモニタした41症例中39症例で認められ,2例ではモニタできなかった.交感神経皮膚反応の波形は三相波で,交感神経幹遮断部位より尾側からの刺激は消失した.これらのことにより,交感神経幹の同定と遮断の確認に有用なモニタであることがわかった. SF-36は患者に手渡しする方法で術前と術後に調査した.術前,術後とも国民標準値を下回っていたのは身体に関する日常役割機能,社会生活機能,精神に関する日常役割機能の3項目であった.術前と術後の比較では,活力がわずかに低値となったが,心の健康の精神的健康度がやや改善した.ほかの項目では特に変化はなかった.0-100得点の術前・術後の比較では,身体機能と精神に関する日常役割機能は変化がなかったが,他の6項目は改善した. 今回の研究で胸部交感神経幹を直接電気刺激して得られる交感神経皮膚反応はETS術中のモニタとして有用であると考えられた.また,SF-36による調査から,多汗症患者は身体面でも精神面でもQOLが低下していること,またETSによる多汗の改善が身体面,精神面の両者で認められたことは,原発性手掌多汗症に対するETSは有意義な治療であることを示唆した.
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