研究概要 |
慢性疼痛の一つに幻肢痛があり,その原因には神経引き抜きがある.慢性疼痛のモデルをつくるために,全身および局所麻酔をしたラットの左側大腿部を切開して坐骨神経を結紮・切断した.切断後,1時間から5週間生存させ,第5腰髄,中脳水道周囲灰白質(PAG)と帯状回に出現したC-Fos様蛋白質産生細胞(C-Fos細胞)を検索した.その結果,上記領域では各生存期間によってC-Fos細胞数の増減があった.この増減はそれらの領域の細胞に再構築が起こり,慢性疼痛を修飾する誘因の一つで,痛み強度の消長の誘因になっていることが推測される.そこで,上記のように神経切断後,種々の鎮痛剤入り飼料を投与して5日間生存させた例と神経切断のみの例で出現するC-Fos細胞数を比較検討した. (1)モルヒネ投与例:第5腰髄の各層に出現して減少した.PAG背側部では変化がなく,外側部と腹側部で減少した.帯状回吻側部のII層とIII層では減少したが,IV層では増加し,尾側部のIIでは増加したが,IIIIVは減少した. (2)SSRI投与例:第5腰髄の各層に出現し,層により差はあるが減少した.PAGでは増加した.帯状回吻側部のII層とIII層では減少したが,IV層では増加し,尾側部では変化がなかった. (3)右薬甘草湯投与例:第5腰髄は層により増減があり,PAGで増加した.帯状回吻側部のII層とIII層では減少したが,IV層では増加し,尾側部では変化がなかった. (4)サリドマイド投与例:第5腰髄のどの層も減少した.PAG外側部で減少し,背側部と腹側部では数に変化がなかった.帯状回吻側部のII層とIV層では増加したが,III層では変化なく,尾側部で減少した. これらの結果より,上記薬物は腰髄での痛み反応を抑制した.PAGはモルヒネにより,下行性痛覚抑制系を抑え,サリドマイドは影響せず,SSRIと芍薬甘草湯は,下行性痛覚抑制系を活性化した.なお,モルヒネとサリドマイドによって,帯状回尾側部は慢性痛によって起こる忌まわしい体験を減弱させると考える.
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