研究概要 |
昨年度からの研究をさらに進展させ,下記に詳述するように複数の観点から,前立腺癌のホルモン依存性喪失の分子機構の解明を進めるとともに,実際の臨床応用に向けてオーダーメイド医療の施行を前提としたノモグラムの開発などを行なった。 1.従来より,前立腺癌のホルモン依存性喪失のひとつのメカニズムとして神経内分泌分化(Neuroendocrine differentiation)についての解析を進めている。今回神経内分泌マーカーのクロモグラニンAの血清値の変動が,転移性前立腺癌の予後と相関することを明らかにした。 2.前立腺癌のホルモン療法の個別化として,テストステロン値およびアンドロゲン受容体の遺伝子多型(CAGリピート)の臨床的意義について解析して報告した。 3.以前より,前立腺癌に対する癌抑制遺伝子の存在を示唆する染色体欠失について検討を続けてきたが,今回第2染色体の欠失が前立腺癌の進行のひとつのキープレイヤーであることを示した。 4.前立腺癌の増殖に関係するサイトカインとしてIL-6などの関与する分子機構があることを示してきたが,今回IL-4も前立腺癌の進行に関与するサイトカインであり,今後の分子標的治療のターゲットとなりうることを示した。さらに新規バイオマーカーについて,プロテインチップシステムを用いて解析して,新規の蛋白を同定した。現在その発現や生物学的役割について解析中である。 5.転移性前立腺癌のホルモン療法に対する予後因子として複数の遺伝子多型について解析し,結果としてIGF-IおよびCYP19の遺伝子多型の重要性を明らかにした。今後これらの遺伝子多型を用いることでオーダーメイド医療が可能になるものと考えられる。 6.前立腺癌の生検に関するオーダーメイド医療を目指した作業の一環として,生検の予測ノモグラムを複数の臨床因子から作成した。さらに生検に関する複数のバイオマーカーを解析した。 7.転移性前立腺癌患者における初回ホルモン療法抵抗性となった症例の約半数において,二次ホルモン療法としてのアンチアンドロゲン交替療法が有用であることを報告した。またアンチアンドロゲン交替療法の有効例と無効例の背景因子の比較検討により,初回ホルモン療法の有効性がひとつの指標となる可能性が示された。さらに分子生物学的背景について検討中である。
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