研究概要 |
前立腺癌腫瘍マーカーPSAはアンドロゲンレセプター(AR)の標的遺伝子の一つであり,主にアンドロゲンによってその発現が制御されている.例えば,アンドロゲン依存性前立腺癌株LNCaPにおいては,アンドロゲンによってPSAの産生と転写活性が誘導されることが知られている.一方,ARの発現を欠いたアンドロゲン非依存性前立腺癌株PC-3, DU145におけるPSA活性は極めて低く,従来からPSAプロモーターを用いた組織特異的遺伝子発現系の適応限界と考えられていた.今回我々は,RT-PCRとWestern blottingにてPC-3, DU145細胞にグルココルチコイドレセプター(GR)が発現していることを確認し,データベースによる転写因子検索とゲルシフト法にてPSAプロモーター領域にグルココルチコイド応答配列を同定した.そこで,PC-3, DU145細胞においてはGRを介したPSAの転写活性が誘導されうるという仮説をたて,デキサメサゾン(DEX)存在下でluciferase assayを施行したところ,有意なPSA転写活性の上昇が認められた.さらに,internal deletionやsite-specific mutagenesisの手法を用いて,同プロモーターの活性増強を試みた.こうして得られたPSAキメラプロモーターの転写活性はアンドロゲンのみならずDEXによっても誘導されると共に,同プロモーターとDEX投与による組織特異的発現系を遺伝子治療に応用することによって,今後のホルモン非依存性前立腺癌に対する新たな治療戦略となりうる可能性がある.
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