研究概要 |
本研究において,局所免疫機構および卵巣ステロイドホルモンが子宮内膜症の増殖制御に及ぼす作用を明らかにした.局所免疫および子宮内膜症組織の構成細胞であるCD68陽性マクロファージ(Mφ)が,内膜症患者由来の正所性子宮内膜組織,内膜症病変組織および腹水中で有意に強く浸潤していることを見いだした(Fertil Steril 81(3):652-661,2004).細菌性エンドトキシンあるいはlipopolysaccharide(LPS)は,炎症惹起物質としてMφやその他の樹枝状細胞上に発現するtoll-like receptor 4(TLR4)を介して各種の炎症惹起性サイトカインの産生を刺激する.内膜症患者腹水由来Mφでは,LPS刺激に対するHGFをはじめとする種々のサイトカインや増殖因子の産生が亢進していることを証明した.また,多能性増殖因子であるHGFが,単独あるいはLPSと協同してオートクラインあるいはパラクライン的に内膜症の増殖に関与することを証明した(Hum Reprod 20(1):49-60,2005). 内膜症患者で卵巣ステロイドホルモンがMφを介したHGFの産生調節に関与することを示した.Mφおよび子宮内膜組織でエストロゲン(ER)およびプロゲステロン受容体(PR)が蛋白およびmRNAレベル双方で発現していることを認め,エストロゲンがMφから産生されるHGFおよびその他のサイトカインを有意に増加させ,内膜症病変に対して,HGFが単独あるいはエストロゲンと協同して増殖作用を発揮することを示した(Hum Reprod,20(7):2004-2013,2005). 我々は,本研究において初めて,内膜症患者由来腹水中のエンドトキシン濃度が,非内膜症患者由来のそれらに比較して有意に高いことを証明した.Mφおよび子宮内膜組織にはTLR4が発現し,内膜症患者由来Mφで産生されるHGF, VEGF, IL-6およびTNFαはLPSあるいはHsp70処理により有意に増加した.抗TLR4抗体処理により,これらのサイトカイン産生および子宮内膜細胞の増殖は有意に低下した.これらの結果は,腹水中のエンドトキシンがTLR4を介して子宮内膜症の増殖に関与することを示唆している. 内膜症患者由来の培養月経血での大腸菌(E.coli)のコロニー形成能が非内膜症患者由来のそれらと比較して有意に高いことを認めた.この結果は,月経血中のE.coliが,内膜症患者腹水中で増加しているエンドトキシンの産生源である可能性があり,TLR4を介した内膜症病変の増殖に関与している可能性を示唆している.
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