研究概要 |
【背景】種々のプロテアーゼが癌の悪性進展に関与することが明らかになっており,その中でトリプシン様・キモトリプシン様のセリプロテアーゼ活性を持つとされているカリクレイン(KLK)については多くの腫瘍組織での発現が報告されているが,そのサブタイプの役割の詳細は不明な点が多い.婦人科悪性腫瘍の中で卵巣癌は特に予後不良であり,腫瘍マーカーCA125は漿液性腺癌では高い感度を有するものの日本人に多く悪性度の高い明細胞腺癌では有意な上昇を示さないことも多く新たなマーカー開発も卵巣癌早期発見の課題である.本研究では主として卵巣癌におけるKLKサブタイプの遺伝子発現を網羅的にスクリーニングし,組織型特異性を検討した.【方法】KLKサブタイプ4,5,6,9,10,11について卵巣癌由来胞株と卵巣癌臨床検体における遺伝子発現量比較をReal-time RT-PCR法により行った.【結果と考察】細胞株の検討で、KLK10は高頻度に高発現していることが見出された.またKLK6は明細胞腺癌由来細胞株で高頻度に発現していた.組織を用いた分析で,KLK10遺伝子の高発現,およびKLK4,9低発現の傾向が細株での検討と同様に確認された.KLK5は漿液性腺癌,類内膜腺癌で高く明細胞腺癌,粘液性腺癌で低い傾向を示した.KLK6の発現は全般に高い傾向があるが,特に明細胞と漿液性で高かった.明細胞腺癌ではKLK5,11の発現が低く,KLK6高い傾向で細胞株の検討と同様の傾向であった.われわれが行ったプロテオーム解析による明細胞腺癌特異的タンパク質を同定する試みによる研究で,候補分子の中にはプロテアーゼカスケードに関与する酵素も含まれており,今回明細胞腺癌での高い遺伝子発現が明らかになったKLKサブタイプとの相互関係を検討していく.また我々は,多くの卵巣癌由来細胞が血液凝固系に関与する組織因子および第7因子を産生しそれらが卵巣癌の悪性進展に関与している可能性を報告したが,KLKもこのカスケードの中で重要な役割を果たしている可能性がある.
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