研究概要 |
妊娠高血圧症候群(PIH)の血液中でtumor necrosis factor-α(TNF-α)は高濃度を示したが,interleukin-6(IL-6)濃度は有意の変化を示さず,胎盤組織内ではTNF-αとIL-6のいずれの濃度も正常妊娠に対して有意差を認めなかった。この事実から本症では血液中のTNF-αは血管内皮障害などの症状の発現に関与しているが,本症の胎盤内ではTNF-αとIL-6が症状発現に重要な役割を演じていない可能性が示唆された。羊水中IL-6を測定すると,PIH妊婦の方が有意に高い濃度を認めることはなかった。この事実からPIHではmaternal-fetal interface(MFI)でのIL-6産生の亢進または低下がなかったと想定された。さらにPIH妊婦の新生児の体重が低く,胎盤機能低下の発症が推定されたが,それに対するIL-6の関与は薄いと推測された。また正常妊娠を維持し正常体重児を分娩した妊婦に比較して,PIH妊婦および低体重児を分娩した患者の方が高い羊水中macrophage colony-stimulating factor(M-CSF)濃度を認めた。この事実からこれらの異常妊娠ではMFIでのM-CSF産生が亢進して,羊水中のM-CSF濃度が高くなったと想定された。さらに高濃度のM-CSFが胎盤機能低下に関与し,新生児体重の低下の原因になるのではないかと推測された。羊水中granulocyte-macrophage colony-stimulating factor(GM-CSF)を測定すると,陣痛発来の前後でその濃度が変化しなかった。したがって,GM-CSFの陣痛発来への関与もしくは陣痛発来によるGM-CSF産生変化への影響はないと推定された。また妊娠38週では妊娠17週に比較してGM-CSF濃度が有意に増大したことから,妊娠経過とともにGM-CSF濃度が増大し,このサイトカインがMFIで妊娠維持のために重要な役割を担っていると想定された。
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