研究概要 |
メニエール病の病理学的病態は内耳の内リンパ水腫であるが、その病因については不明な点が多い。また、発症には生活環境における外的ストレスによる体内リズム変調が関与し、そのリズム変調による内耳液制御の破綻が内リンパ水腫を形成あるいは促進させる可能性がある。我々は、日内リズムの表現型として最も信頼性が高いメラトニンを用いて、メニエール病における日内リズム変調について検討してきた。メニエール病症例と健常成人における唾液中メラトニン濃度の日内リズムをsingle cosinor法を用いて解析した。また、ストレススコアー、睡眠時間なども調査し、相関性の有無を検討した。両群ともに、唾液中メラトニン分泌は有意な日内リズムを持つことを証明し、とくにメニエール病群ではリズム解析による平均値および振幅値がそれぞれ0.77pg/mg(95%Cl,0.46-1.08),0.99pg/mg(95%Cl,0.60-1.38)であり、健常成人の2.18pg/mg(95%Cl.1.18-3.18),2.68pg/mg(95%Cl,1.42-3.97)に比して有意に低下していた。頂点位相はメニエール群で23:30,正常群で1:59と位相の前進がみられた。臨床データ(聴力、CP%、罹病期間など)との相関はなく、ストレスやうつ傾向を示すデータの上昇との関連性が強く、それらの背景因子が影響している可能性を示唆した。1年間めまい発作が誘発されなかった症例群では1年後のメラトニン濃度は平均値、振幅ともに有意な上昇を認め、メニエール病発症におけるメラトニン分泌あるいはリズム変調の関与が考えられた。(Aoki M,2005)。 また、内耳液制御にはNa-K-ATPaseを介して、バゾプレッシン(ADH)、アルドステロンなどの内分泌系ホルモンが関与している可能性が報告されている。そこで、メニエール病症例、その他の末梢性めまい症例などを対象に血漿バゾプレッシン(ADH)濃度を測定した。メニエール病症例の発作期での血漿ADH濃度は5.80±1.37pg/mlであり、間歇期の2.26±0.41pg/mlに比べて有意に高い結果であった。興味あることにその他の末梢性めまい症例では、発作期は1.71±0.23pg/ml、間歇期では1.45±0.15pg/mlであった。これは健常成人での正常範囲である0.3-3.5pg/mlと有意な差はなかった。ストレススコアーにおいてもメニエール病発作期ではその発作前3ヶ月以内のストレスイベントスコアーが他疾患群より有意に高かった。こうしたことから、メニエール病症例においてはストレス制御システムとして作動する視床下部・下垂体・副腎皮質系のfeedback systemの破綻に伴うバゾプレッシン分泌の感受性増強がメニエール病発症の病因に関与している可能性が示唆された。しかし、こうしたADHあるいはメラトニンなどの内分泌系異常が、メニエール病症例における症状発現の結果なのか、ストレスなどの外的環境因子によるものか、それとも症状発現あるいは内リンパ水腫形成に関与した発症メカニズムの一端を担っているのかは不明である。
|