研究概要 |
平成16年度は,ラット網膜毛細血管を用いて酸化ストレスによるアポトーシスと細胞死を誘導し,チオレドキシン(TRX)が網膜血管周皮細胞の酸化ストレス死を遅らせ防御的に作用することを明らかにした。システインをセリンに置換したmutant TRXにおいて細胞死を抑制できなかったことより,このシステイン残基が細胞防御作用,抗アポトーシス効果を発揮したものと考えられた。平成17年9月に,この研究成果を第15回欧州眼科学会(ベルリン)で発表した。平成17年度は,酸化ストレスが網膜毛細血管死に及ぼす因子として個体の加齢が影響するかどうかを調べた。Long-Evansラットの新鮮網膜毛細血管を摘出後,trypan blue assayで毛細血管細胞の死亡率を確認した。2ヶ月齢の若年ラット群と15ヶ月齢の高齢ラット群で比較した。薬物無投与にも関わらず5時間後に2ヶ月例に比較し,15ヶ月齢では高率の細胞死が観察された。2ヶ月齢ではTRXは酸化ストレス死を遅らせ防御的に作用したが,15ヶ月齢ではTRXの細胞死抑制効果は軽微であった。 TRX自体は体内で誘導されるも直接内服摂取は困難なため,今後,TRX以外の抗酸化作用を有する薬物を投与し,酸化ストレスによる網膜毛細血管細胞死が抑制されるかどうかを検索して行く。現在,循環器作動薬である塩酸カルテオロール,カルベジロール,抗生剤である塩酸ミノサイクリンを用い,人体における有効血中濃度で細胞死の抑制効果がみられるかどうかを実験中である。我々の実験系は,薬物が網膜毛細血管に及ぼす功罪を検証することが可能であり,種々の薬物の毒性実験に供与できるものである。
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