研究概要 |
組織レベルではギャップジャンクション細胞間相互作用や自律神経支配様式により細胞レベルとは異なる分泌制御機構が存在する。この制御機構を明らかにするために、研究を進め以下のような結果を得た。 (1)細胞集団塊での各種自律神経作動薬刺激によるアミラーゼ蛋白分泌は、細胞間連絡阻害剤存在下で抑制された。 (2)顎下腺組織片へのフィールド電気刺激によるペルオキシターゼ分泌は、細胞間連絡阻害剤で抑制された。 (3)腺房集団塊では細胞内形態変化を,導管細胞塊では分泌に伴う内径拡大を指標に調べると,細胞間連絡阻害下では,蛋白分泌反応の腺房内での偏りが観察された。水分泌にはむしろ形態変化の増強が見られた。導管機能は顕著に変化しなかった。蛋白分泌と水分泌に対して細胞間連絡阻害剤は異なる作用をもたらすことが示唆された。 (4)分泌刺激でCaシグナルは腺房全体に広がるが,細胞間連絡阻害剤下では,一部の腺房細胞に留まることからCaシグナルは細胞間連絡を介して伝達されることが示唆された。 (5)組織片からのアミラーゼ分泌は,細胞骨格脱重合薬で抑制されたが,各種kinase阻害剤の抑制効果は弱かった。水分泌の細胞内形態変化も抑制されたが,組織片でのみ特異的に作用する薬物は検出できなかった。 (6)顕微鏡観察では,腺房集団周囲を毛細血管網が取り囲み,神経終末の観察確率は低く,細胞間連絡が少ない神経終末部の機能を補っていることが示唆された。 (7)グラミシジン穿孔パッチ測定での腺房細胞集団塊での振動性分泌電流には大小があるが,細胞間連絡阻害剤存在下では均一の大きさになる傾向があり,細胞間連絡を介する無機イオン分泌の存在が示唆された。 生体や組織レベルでの細胞間連絡は,自律神経支配を補う形で,シグナル伝達などに貢献し,唾液分泌制御に寄与することが示唆された。
|