研究概要 |
バソプレシン,その代謝断片や代謝断片類似ペプチド(以下バソプレッシン類)の記憶増強作用についての細胞内作用機序の検討を行った。動物行動実験のマウス受動回避学習課題では:グルタミン酸作動性神経活動を司る,NMDA receptorや代謝型グルタミン酸受容体のagonistやantagonistを用い記憶保持能力の検討を行うと,バソプレシン類の記憶保持増強能力はantagonistの作用とお互いに成績が拮抗し,agonistでは増強と憎悪の両方の結果を認めた。これらはバソプレシン類の記憶増強効果がグルタミン酸作動性神経の受容体を介してその作用を出現させる示唆である。それ故,グルタミン酸作動性神経活動による,逆行性神経伝達物質とバソプレシン類との関係を検討した。逆行性伝達物質のアラキドン酸の代謝産生に関与する酵素シクロオキシゲナーゼ(COX)の抑制が記憶にどの様な影響を与えるかを検討した。Morris Water MazeとPassive avoidance testにおける課題獲得後non-specific COX inhibitorを投与すると課題の成績低下が生じた。これはspecific COX-2 inhibitorにおいても認められたが,specific COX-1 inhibitorでは認められなかった,それ故COX-2活動が記憶形成に重要と考えた。また,COX-3のspecific inhibitorとされているアセトアミノフェンの記憶に対する検討でも,glutamatergic神経活動に関与するのは,COX-2であった。Real time PCRではMorris Water Maze終了後2時間以内でCOX-2のmRNAの低下があり,バソプレシン類の増強効果は内因性COX2抑制状態ではその効果を減弱させたことから,バソプレシン類の記憶増強効果は細胞内COX-2の活動が重要である事が示唆された。
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