研究概要 |
セロトニン生合成の律速酵素であるトリプトファン水酸化酵素には2つのアイソフォームがあることが一部の研究者には知られていたが,2003年になって,新たな遺伝子が同定され,従来知られていたものはTPH1,新たに発見されたものはTPH2と命名された。肥満細胞性培養細胞であるRBL2H3細胞では,分子代謝回転の半減時間が約15分と,きわめて短い。このタンパク分解は,トリプトファン水酸化酵素のタンパク質キナーゼによるリン酸化をきっかけとするユビキチン化,そのユビキチン化ターゲットとする26S-プロテアソームによる断片化によるものである。本研究では, 1.TPH1とTPH2を識別する抗TPH1,抗TPH2抗体をそれぞれ作出した。これらをもちいて,主な臓器における,上記アイソフォームの分布を再検討し,(1)すでに報告されていた通りTPH1が末梢性,TPH2が中枢神経性に優位であったが,ほとんどの組織において両者が発現する事,(2)従来セロトニン産生細胞とはされていなかった,消化管粘膜吸収上皮にもTPH1,TPH2ともに発現する事を明らかにした。 2.肥満細胞培養株RBL2H3において,IgEとその抗原による細胞内カルシウム濃度の上昇によって,TPH1の遺伝子発現が著しく促進される。TPH発現誘導は,NF-κB経路によることを明らかにした。 3.分子表面に裸出するセリン残基(S58,S260,S443)を,アラニン,およびグルタミン酸へ変更した点突然変異TPHを作出した。これらの点突然変異を複数組み合わせたTPH1-cDNAをHeLa細胞に導入した結果,いずれの変異TPH1タンパク質も,トリプトファン水酸化酵素活性を示した。 今後,本来のTPH1に対するキナーゼーユビキチン化酵素系-26Sプロテアソームを具備するRBL2H3細胞の無細胞系による被分解特性を観察する。
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