研究概要 |
ヒトの口腔扁平上皮癌細胞株を対象に細胞膜表面のガングリオシドGM3の発現量と抗癌剤感受性との関連の解明を目的として本研究をおこなった.JCRBより入手した14種類のヒトの口腔扁平上皮癌細胞(Ca9-22,HSC-2,HSC-3,HSC-4,Ho-1-N-1,Ho-1-U-1,KON, Kosk2-c13,SAT, SAS, SCC4,SKN3,OSC-19,OSC-20)を対象とし,ガングリオシド画分を薄層クロマトグラフィーで検出した.各細胞株のGM3合成酵素(SAT-1)遺伝子の発現量をReal time PCR法にて測定した.GM3産生量とSAT-1遺伝子の発現量は細胞株により量的差異がみられ相関傾向が認められた.シスプラチン投与3日後の50%有効濃度(Ic50)をMTTアッセイで分析したところSAT-1遺伝子の発現量とシスプラチンのIc50は正の相関傾向(R=0.717)を示した.次に,GM3の発現量を同一細胞株で制御することによりシスプラチン感受性が変化するかを検討した.Ca9-22株はGM3の前駆体であるLac-Cerを多く発現し,GM3の発現量が少ない性質を持っており,この株にマウスのSAT-1遺伝子を導入したクローンを作製した.SAT-1遺伝子導入株でガングリオシド発現を調べたところ,GM3の発現量は増えておらずGM3の代謝産物であるGM2が増えていた.このSAT-1遺伝子導入株とMockではシスプラチンの感受性に差がみられなかった.また,ガングリオシド合成阻害剤であるD-PDMP, PBPP, P4にて24時間処理して細胞内のガングリオシドを枯渇した状態でのシスプラチン感受性を調べたが,細胞株Ca9-22,OSC20,SCC4ではいずれも対照と比べてシスプラチン感受性の差を示さなかった. 以上の結果よりGM3が単独でシスプラチン感受性に関与するのではなく,より多くの要因が関与すると考えられ,抗癌剤によるアポトーシス誘導のシグナル伝達におけるガングリオシドの役割究明が次なる課題として考えられた.
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