研究概要 |
歯髄炎はう蝕細菌の侵襲に対して歯髄の免疫応答が惹起された状態であり、炎症が進展するに従って著しいリンパ球浸潤が認められ、病態の進展に関与していることが示唆されている。また、歯周炎も口腔内細菌を起因とする炎症性疾患であり、病変には多数の炎症性細胞浸潤が認められる。しかしながら、どのような機構で炎症性細胞が病変局所に浸潤しているか、不明な点が多い。今回我々は、炎症性細胞浸潤に関与しているとされるケモカインに着目し、それらの炎症局所での発現について検索した。さらに歯髄組織ならびに歯周組織の主な構成細胞の一つである線維芽細胞に着目し、それらのケモカイン産生能について調べた。 歯髄炎病変局所では、T細胞浸潤に関与しているCCL20ならびにCXCL10の発現が認められ、同一部位にそれぞれのレセプター(CCR6およびCXCR3)を発現している炎症性細胞浸潤が認められた。また、歯周炎病変局所でもT細胞浸潤に関与しているCCL20,CXCL12ならびにフラクタルカイン発現が認められ、それぞれのレセプターを発現している炎症性細胞(CCR6,CXCR4,CX3CR1)発現細胞の浸潤が認められた。 また、歯髄線維芽細胞は炎症性サイトカイン(IFN-γ、TNF-α)や細菌由来物質(E.coli LPS)刺激などによりCXCL10産生が誘導された。また、歯肉線維芽細胞も炎症性サイトカイン(IL-1β,TNF-α,IFN-γ)、細菌由来物質(E.coli LPS, P.gingivalis LPSなど)の刺激により、CXCL12,CCL20産生が上昇した。 これらの結果から歯髄炎ならびに歯周炎病変局所には多種のケモカインが存在し、それらが炎症性細胞の浸潤を制御している可能性が示唆された。これらのケモカインをターゲットにした炎症を制御するアプローチが考えられ、さらなる研究が必要であろう。
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