研究概要 |
本課題では,部分床義歯やインプラント義歯など,これまで特に応力解析が困難と考えられてきた規模の大きな補綴装置を対象として,疲労による破折や変形を避けるための構造設計の手法を明らかにすることを目的とした. 上記の目的を達成するため,以下に示す三つの解析を行った.すなわち,1)臨床例の分析から得られた義歯破壊のメカニズム,2)個々の破損義歯をモデル化,力学解析して得られる応力特性,3)材料,特に新素材の疲労特性,である.このうち,1)により,義歯の設計形態と破損部位,破損の頻度などとの関係を検証した.2)では,部分床義歯のレスト,リンガルバー,クラスプ,レジンと金属床との界面部など,それぞれが特徴的に示す応力分布を明らかにした.それぞれの構成要素において機能時に示される引っ張り応力の集中部位は,機能時に生じる義歯の破損と深い関連があるものの,厚さなどの形態的特徴や応力集中部位とは必ずしも関係なく損傷が生じることがある.この結果は1)との照合から明らかになり,材料表面の微小欠陥や,義歯の過大な動きなどが原因となることが示唆された.3)では,義歯内部に生じる応力集中と義歯の破損との関係を,さらに材料の疲労特性との関係から一般化した.この研究により,材料自体の疲労試験から得られたデータを義歯の力学モデルに取り込み,機能時の疲労強度を算出することができた.これにより,材料ごとに異なるクラスプの疲労強度をもとにした設計最適化の指標を得た. 以上の結果により,疲労強度に基づいた設計最適化により,部分床義歯の設計,形態,および材料の選択は理論的背景に沿ったものとなり,義歯の機能的な耐久性の明確化に寄与するとともに,今後の高齢化社会において格段に信頼性の高い診療を実現するための助けとなると考えられた.
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