研究概要 |
筋の慢性疼痛は,疲労,不安,ノイローゼ,慢性の口腔悪習癖などの精神的,身体的なストレッサーによって亢進するとされている.しかし,実際に顎関節症患者においては,これらのストレッサーと臨床症状の発現との関連性が明確にされていない.また,咀嚼筋の疼痛は慢性経過をたどることが多く,慢性化する原因として局所的な原因だけでなく,精神心理状態やその変化が人体のホルモン系に変化を与えるという全身的な原因が関与している可能性があげられる. そこで,精神神経免疫学的パラメータであるコルチゾールおよびクロモグラニンAの臨床的な評価方法を検討した上で,主観的疼痛評価および感情プロフィールの分析によって得られた結果との関連性を明らかにするために本研究を行った. 当該期間において,学会誌発表2編,口頭発表21編(うち7編は国際学会),出版物1編の発表を行ったが,概要は以下のとおりである. 1.顎関節症における症状のマネージメントにおいて,精神社会生物学的因子が重要な役割を果たしており,歯科的介入を行わなくとも,2か月で約85%の患者の症状が改善することを示した. 2.疼痛を定量的かつ定性的に評価するために,Multidimensional Pain Inventory (MPI)英語版の翻訳ならびに妥当性の検討を行い,内的妥当性,理論妥当性,基準関連妥当性および構成概念妥当性が良好であることを示した. 3.三叉神経支配領域の知覚閾地および痛反応閾値には,身体的因子が影響を及ぼしている可能性を示すとともに,顎関節症の再病態別に心理プロフィールの特徴が存在し,これが臨床症状の発現に影響している可能性を示した.精神神経免疫学的パラメータとして,ストレスマーカーであるコルチゾールに着目し,顎関節症患者のうち,顎関節障害群,咀嚼筋障害群,咀嚼筋・顎関節障害群の順に唾液中コルチゾール濃度が高い傾向を有することを示した.
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