研究概要 |
申請者らは簡便な舌圧測定装置を開発し(文部科学省研究補助基盤C課題番号14571845),加齢による舌圧の変化を検討した結果,高齢者において舌圧が低下していることを明らかにした(lnt. J. Prosthodont,2002)。舌圧は食塊の保持や送り込みに関与することから,加齢に伴う嚥下の時間遅延に舌圧低下が影響する可能性を着想した。 本装置はプローブを上下歯で噛んで測定するため,軽い開口状態で測定することとなる。したがって,嚥下時に創出される圧は通常の嚥下時とは異なることが想定されるため,16年度は本装置で得られる嚥下舌圧の妥当性にっいてさらに検討を行った。この装置による測定結果を,閉口状態で口蓋正中部の前,中,後方3ケ所の舌圧を測定可能なKAY社の舌圧測定装置で得られた舌圧と比較し,その相関について,健常若年者を用いて検討した。その結果,本装置が舌全体により創出される圧力を適切に測定できることを示し,最大舌圧のみならず嚥下時の舌圧測定にも利用できることを示唆できた。 本年度では健常若年者と健常高齢者を対象としたビデオ嚥下造影検査を用い,嚥下時の咬合接触の有無が嚥下機能に及ぼす影響について検討を行った。その結果,健常高齢者では健常若年者と比べて有意に高い頻度で口腔準備期に咬合接触が認められた。また咬合接触をしてから口腔期を開始させる健常高齢者は咬合接触をしない健常高齢者と比較して喉頭閉鎖や喉頭挙上を有意に早期から開始していることも明らかとなった。 過去の我々の報告からも,健常高齢無歯顎者の義歯非装着時は健常高齢有歯顎者と比べて,有意に高い頻度で喉頭流入を認めた(JAGS,2006)。喉頭流入は誤嚥性肺炎のリスク因子の一つであり,加齢による嚥下予備能力の低下がおこる高齢者では,舌圧の低下予防と咬合接触による下顎の安定によって,喉頭閉鎖や喉頭挙上を早め,喉頭流入や誤嚥を予防できる可能性が明らかとなり,健常高齢者の嚥下動態を考える上に有益な示唆を得た。
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