研究概要 |
義歯の構成要素としての義歯の人工歯列が嚥下機能にどのような役割を果たすかを調べるために,全部床義歯を装着する無歯顎者の実験用義歯を作製して,咬合力,舌圧,筋活動,下顎運動,喉頭挙上の動きを同期して計測するシステムを構築して,実験協力被験者の計測を行った。人工歯列の有無を変更できる実験義歯に,咬合力と舌圧の計測のための圧力センサーを,それぞれ第1大臼歯咬合面と,口蓋中央前方と後方,口蓋側方の前方と後方に設置した。筋活動は咬筋と舌骨上筋群の筋放電平均値積分,喉頭挙上運動は加速度ピックアップセンサー,下顎運動はMKG(垂直方向成分)を用いた。嚥下条件は,指示嚥下(水,プリン)ならびに自由咀嚼嚥下時(コンビーフ)として,計測,分析した。 1.筋活動 人工歯列の有無により,筋活動最大値は舌骨上筋群は影響を受けず,咬筋のみが影響され,人工歯列があるほうが大きくなった。しかし,筋活動の時間は,咬筋,舌骨上筋群ともに影響を受けなかった。被験食品では,咬筋,舌骨上筋群ともにコンビーフでの活動量が有意に大きかったことは,被験食品のテクスチャーが大きく影響することを意味していると考えられた。 2.舌圧 人工歯列の有無により,口蓋の側方部において舌圧最大値が影響を受け,人工歯列があるほうが舌圧は大きくなった。被験食品の違いでは,コンビーフの舌圧の大きさが有意に大きかった。舌圧最大時と喉頭挙上時の時間の差は,人工歯列の有無により,水嚥下とプリン嚥下の場合にのみ影響され,舌圧の部位による影響は認められなかった。水嚥下の場合は人工歯列がある方が喉頭挙上開始後に舌が早く口蓋に接触し,プリンの場合は人工歯列がない方が喉頭挙上開始後に舌が早く口蓋に接触した。このことから,食品のテクスチャーにより人工歯の有無の影響が異なり,今後のさらなる検討が必要と考えられた。
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