研究概要 |
本研究の目的は,脱落乳歯歯髄幹細胞(SHED)の培養法を確立して,in vitroにおいて細胞への最適な分化条件を設定し,この細胞の多能性を証明すること,さらに,SHEDが特に中枢神経に特異的に分化する能力を持つという報告をうけて,移植による神経系への分化転換を動物モデルによって検討することにある。最初にSHEDを培養し,胎生マウスの脳内に移植したところ生着が確認され,その一部は視床下部視交差上核(SVN)に認められ,免疫染色の結果,アストロサイトに分化したことを示した。また,SHEDを新生マウスの脳室内に移植したところ,脳梁および海馬歯状回の顆粒層に移植細胞が認められたが,生着した細胞は少数であった。この原因は,ヒト歯髄細胞はマウスに移植後,環境因子の影響を受けた可能性が考えられた。そこで,移植細胞が海馬歯状回において生存するための環境因子の影響を調べるために咀嚼に着目し,咀嚼が海馬神経幹細胞に与える影響を明らかにした。マウスを粉末飼料投与群,抜歯後粉末飼料投与群およびコントロール群の3群に分け,海馬神経幹細胞の性質をBromodeoxyuridine(BrdU)投与により調べた。その結果,BrdU投与直後の神経幹細胞数は3群間で変わらなかったが,BrdU投与5週間後では,コントロール群に比べて,他の2群で神経幹細胞数の減少が認められた。この事は,海馬にSHEDを移植する場合,移植後の細胞が容易に生着するためには環境因子の設定が必要であり,咀嚼の条件を工夫することにより,移植細胞が容易に生着しやすい環境を設定できることが示唆された。
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