研究概要 |
注意欠陥多動性障害(ADHD)は,小児期に発症する精神疾患で,歯科治療においても協力が得にくく,治療困難となる場合が多い。その原因には遺伝的要因の関与が示唆されており,薬物療法で用いられるメチルフェニデートの作用するドパミントランスポーター(DAT)が,本疾患の発症に深く関与する可能性が指摘されている。一方,疫学的研究よりストレス,内分泌撹乱物質等の環境因子を含めた外因性多因子の関わりも考えられている。そこで本研究は,DAT発現変化によるドパミン(DA)神経機能の修飾がADHD発症に係わる可能性を追求する目的で,ストレッサーとしての環境因子がDAT機能発現に及ぼす影響を探索した。 培養細胞発現系並びにマウス個体レベルにおいて,DAT遺伝子発現の解析をDATmRNA,蛋白発現並びにDAT遺伝子プロモーター活性のレポーターアッセイにより行い,DAT発現に対するエストロゲン並びにエストロジェン様作用を示す環境汚染化学物質の1つであるbisphenol-A(BPA)の影響を調べた。その結果,17β-estradiol(20nM)24時間処置により,エストロジェン調節領域(ERE)を含む10kbのコンストラクトpD10.1発現SK-N-SH細胞ではルシフェラーゼ活性の抑制が,EREを含まないコアプロモーターのpD2.4コンストラクトでは逆に増強が認められた。同濃度のBPAはpD2.4に対する増強作用のみが観察された。また両薬物処置により,培養細胞(SK-N-AS)並びにマウス脳におけるDAT mRNA発現は亢進していた。 以上の結果から,エストロジェンあるいはエストロジェン様作用を示す環境汚染化学物質は,DAT遺伝子転写活性に影響を与えることが明らかとなった。その作用は,EREを介した抑制機序と,EREに依存しない増強機序によることが示唆された。
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