研究概要 |
研究代表者ならびに研究協力者は以下の3つの研究において結果を得ることができた. (1)歯周病患者52名(慢性歯周炎患者37名,侵襲性歯周炎患者15名)より,歯肉溝滲出液(GCF)181サンプルを採取し,ELISA法にてGCF中のIL-1βと可溶性IL-1受容体type2(sIL-1Rtype2)量を測定した.その結果,治療前のGCF中のIL-1βとsIL-1Rtype2量は歯周炎の臨床所見と相関し,歯周炎の炎症の程度が亢進するに従い,産生量が高かった.次に病態の違いが産生量に影響を与えるかどうか調べたところ,IL-1βは慢性歯周炎患者82.2±12.3ng/mlと侵襲性歯周炎患者患者68.3±9.4ng/mlの間において産生量に有意差が認められなかったのに対し,sIL-1Rtype2量は慢性歯周炎患者3.0±0.6ng/mlがであったのに対し,侵襲性歯周炎患者1.1±0.3ng/mlの方が有意に低い産生量を示した.したがって侵襲性歯周炎患者に特徴的である,急速な歯周組織破壊にsIL-1Rtype2産生の低下が影響している可能性が示唆された. (2)健常者88名と侵襲性歯周炎患者102名のsIL-1Rtype1とsIL-1Rtype2の遺伝子多型を調べたところ,相互比較によりその領域に26のSNPsを同定した.さらにそれらのSNPsを用い連鎖不平衡解析を行い,その結果を基にAgPについてそれぞれの遺伝子との関連性の検討を行ったところ,IL-1R type2遺伝子における遺伝子多型およびそれらで構成したハプロタイプにおいて,AgP群と健常者群との間に顕著な有意差が認められた.さらに有意差のあったハプロタイプを有する患者群とそれ以外の患者の間で臨床症状の違いを検討中である. (3)歯周組織構成細胞である上皮細胞,歯肉線維芽細胞,を歯周炎患者より採取し,得られた細胞を歯周病関連細菌のリポ多糖で刺激し,IL-1βとIL-1Rtype2のmRNA発現,上清中のIL-1β,sIL-1Rtype2タンパク濃度,さらに細胞表面でのIL-1Rtype2発現をFACSにて調べた.その結果,IL-1Rtype2は歯肉線維芽細胞においてmRNA発現は認められたものの,上清中にsIL-1Rtype2タンパクは検出されなかった.またFACSの結果においても,IL-1Rtype2発現は認められなかった.以上のことからGCF中に検出されるsIL-1Rtype2は歯周組織構成細胞よりむしろ,炎症組織に認められるリンパ球系の細胞から産生されている可能性が示唆された.
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