研究概要 |
九州歯科大学口腔外科に通院する唇顎口蓋裂術後患者を対象として,言葉と顔貌への不満と社会生活について独自に作製したアンケート,および8種類の心理尺度を用いて心理社会的特性を評価し,言葉と顔貌の主観的評価と併せて検討した.その結果,異常構音の有無,審美障害の軽重に関わらず抑鬱・不安レベルに異なる傾向が見られた.抑鬱・不安レベルの低い患者では,顔貌の悩みを表明せず,現状に無関心であるか問題を否認しようとする経口,あるいは,自己の生き方と対人関係での自己受容が高く,良好な心理的適応を示すものの,自己を抑制してまで他者を援助したいという志向が強く,過剰適応に陥る傾向が特徴的に見られた.一方,抑鬱・不安レベルの高い患者では,外見に強い不満を訴え,社会生活での様々な場面で苦痛,不安を感じやすい性格傾向,自己の内面に注目できない状態にあり,様々な問題を自覚的に捉えることができないまま社会的に引きこもろうとしている可能性,外見と言葉,特に外見に強い不満・悩みを訴えて,社会的に損をしていると思い,他人の視線が気になり,不安を感じやすい傾向などが特徴的にみられ,さらに,強い問題意識を持ちながらも,他者や社会に適応しようとするあまり,特に自己を抑制する傾向があり,さらに不満を高めている可能性が見られた.この結果については,第29回日本口蓋裂学会総会(平成17年5月,東京)において発表した.思春期初期の患者では,自己意識が未分化であり,自己意識の発達に伴って心理社会的問題が自覚される可能性が考えられた.そこで,審美障害,構音障害が客観的に同程度と思われる患者における心理社会的特性を比較したところ,審美・構音障害に対する不安・不満の程度は自己意識の発達の程度に左右される傾向があることが示唆された.本研究の結果から,思春期にある患者の言葉と審美に対する不安・不満と心理・社会的背景,およびそれらの相互関係が明らかになれば,治療体制における適切な心理的支援の指針が得られる可能性が示唆された.この結果については,The 1st International Workshop of the International Cleft Lip and Palate Foundation (December 2005, Chennai, India)において発表した.
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