研究概要 |
本研究の目的は,痴呆性高齢者との「音声」の韻律的特長をいかした「認知症高齢者とのコミュニケーション促進プログラム」を作成し,療養環境音の影響も併せて検討することであった.初年度は,これまでの研究経過から,認知症高齢者との韻律的特徴に着目したコミュニケーションプログラムの可能性について検討するとともに,介護老人福祉施設における療養環境音に注目し,昼夜24時間の騒音実態を調査した.施設の昼間の騒音は,日常生活雑音に混じり,高齢者の大声や日常生活援助に伴うスニーカーの靴底がすれる音,椅子をひく音,テレビの音量など即座に改善可能なものが明らかとなった.さらに,療養環境に流れる音楽の種類と認知症高齢者の生理学的反応の関連を明らかにするための基礎調査として,グループホームを利用する高齢者を対象に調査を実施した.曲の種類の違いによる生理学的反応では,収縮期血圧との関連性が示唆された. 今年度は,高齢者の生活歴や性格,好みを重視した「声かけ促進シート」を作成し,これを活用して3ケ月間の介入調査を実施した.介入前後で精神機能評価、日常生活状況,NMスケール,日常苛立ち事を評価した.シート活用後では日常生活状況評価のうち「コミュニケーション」得点が有意に上昇,それ以外の項目に変化は認められなかった.今回対象者2名のうち1名が介入期間に入院となり分析から除外したが,要介護高齢者を対象とした研究では,このような事態を予測することも必要であった.従って「声かけ促進シート」による効果判定は現時点で不可能であるが,今後もコントロール群をおくなどしてデータを追加し検討する予定である.また,このシートの活用効果についての質問紙調査では,全員が有効と回答し,「対象理解につながった」「好みの話題を選んでコミュニケーションが図れた」「ケア場面に活用できそうだ」等の記述が認められた. 以上より,言語の韻律的特長や生活歴に配慮した声かけプログラムの有効性は明確とはいえないが,今後も検討する計画である.
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