研究概要 |
1.研究の目的:本研究目的は,チベットの伝統的な美術工芸の技材と継承に関し青海省黄南チベット族自治州同仁県,レプコン(Rebg-gong)地方の調査にある。当地は,チベット仏教の信仰に根ざす仏画(タンカ),金属工芸,繍仏,金銅仏,泥塑像,仏塔,木工,バターの彫刻など工房や個人の家,寺院で分散し制作され続けて生産供給地と同時に集積地としての文化的特長がある。一方で中国辺境部への急速な経済発展がすすむなかで,伝統文化の変容,少数民族の漢族化などにより固有の民族文化の衰退がすすみつつある。そのためチベット人の芸術と文化的な伝統の集積と現状調査が課題である。調査項目は,(1)仏教信仰を荘厳する金属工芸と絵画の伝統的な表象芸術調査,及び(2)寺院壁画,仏画(タンカ)芸術の現状調査である。 2.研究の成果:現地の伝統文化については,チベット文書と仏画を基礎資料に用いチベット工芸、絵画を現地 調査(2004〜2007年)した。(1)現地の工芸文化の特長は,信仰、芸能活動と一体化している点にある。伝統行事は,アムド地方の古い様式の法舞(寺の主催),及び六月会で龍舞,軍舞,神舞と呼ぶ芸能(村毎の主催)が開催される。両行事は,共に身体に工芸・装飾品をつけ年一度の伝統的な工芸品が出揃う特長的な芸能の場である。つぎに(2)仏画(タンカ)芸術は,寺の一部に遺されてきた壁画,個人収蔵品を調査した.見いだした壁画は,当地の縁起(ウートン上寺),密教図像(ゴマル寺小弥勒堂),仏教壁画(同寺の大弥勒殿),ツォンカパ伝記壁画(同寺の大集会堂)等のアムドの古い壁画で,取り外し可能なパネル式壁画の裏に隠匿されている事を調査により解明した。現在の問題は,寺の僧侶(画師)が原壁画に修復を加えているため,著しく壁画に変化が進んでいる。調査では個人の収集家から,仏画数点(十一面観音菩薩像,護法神像など)の保存状態を確認できた。それぞれが当地の生産供給地と同時に集積地としての文化的特長を備えた優品である。
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