研究概要 |
本研究では,発症前24週間にわたり労働条件,生活条件が同定できる客観的なデータが揃った時短勤務中のホワイトカラー労働者の過労障害事例の睡眠-覚醒リズムを分析した。被災者の過労障害の発症は,被災者の業務がラップトップコンピュータを用いれば場所と時間が問われず遂行できる業務,またプレイイング・マネージャー的業務であることを背景としていた。被災者の過労障害の発症は,Saitoの指摘する,多重負担,発症前3カ月からの過労状態,生理心理的な休息にならない休日の3つの特徴と合致した。生理心理的な休息にならない休日の内容は,休日の覚醒時には感情が生じて心身を休息させないこと,睡眠時には"the sleep apprehension"によって睡眠時の徐波睡眠が剥奪されることと推測された。被災者の過労障害発症のプロセスは,3つの段階で捉えることができた。第1段階は,メール関連指標の悪化に代表され,第2段階は労働時間の増大に代表され,第3段階は,睡眠時間の短縮に代表された。本症例では,Wadaが指摘している「一般に"Karoshi"発症直前の労働負担は高くなるといわれている」ことを必ずしも踏襲しなかった。したがって現時点では,発症直前の労働負荷が必ずしも高く現われない場合もあることを認識しながら,労働負荷のかかりかたとその反応である負担の遅延を詳細に見ていくことが重要である。そのためには,本事例研究で採用した週内性過労の視点から勤務日と休日の過労像がどのように進展するかを検討すること,また長期的な時系列変化として捉えていくことが重要と思われる。
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