研究概要 |
感性工学的研究において、C.E.Osgoodが開発したSemantic Differential(SD)法が広く利用されている。しかし、SD法で抽出される評価性因子、活動性因子、力量性因子の内容は、やや多義的で抽象的なので、リアルな心理過程に関連させて考察を深めることが困難で、実際場面で応用しにくい問題があった。 SD法で頻繁に使われる各形容詞尺度がどの程度、それぞれの感覚モダリティに関連するか、7段階スケールを使って調べた。これをMD(modality differential)法と呼ぶことにする。MD法で得られたデータに主成分分析やクラスター分析を行った結果、冷覚、温覚、味覚、嗅覚、痛覚、触覚に大きな負荷量を示す近感覚性を示す次元と、身体運動感覚と平衡感覚に高い負荷量を示し、自己受容感覚に対応する次元、そして、視覚と聴覚に高い負荷量を持ち、クラスターを形成する遠感覚的性質を示す次元が見出された。また、評価性を代表する「快-不快」などの形容詞群は多くの感覚について一般に高い関連性得点を示し、マルチモダリティ性が強いことがわかった。一方、力量性因子に対応する「鋭い-鈍い」「かたい-やわらかい」などの触覚などに高い関連性を示し、活動性因子に「激しい-穏やかな」「活発な-不活発な」などの形容詞対は聴覚や運動感覚に高い関連性を示した。これらの結果は、因子の感覚関連度を求めた研究(鈴木・行場,2003)や、NIRSを用いてSD評定課題遂行時の脳内活動を調べた研究(Suzuki, Gyoba, and Sakuta, 2005)の結果と対応するものであった。 このようなアプローチを応用的方向に向ければ、製品などの目的に応じた感覚モダリティ・フィットネスをもつ印象生成や印象管理に指針を与えることが可能であり、感性工学や製品開発・管理分野へのインパクトは大きい。
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