本研究の目的は、昨年度に引き続き、普段から自転車を使用している中高齢者に対し、自転車のギア比を工夫することで日常生活の中により素早い脚の踏み換え動作実施の機会を増やし、このギア比を変更した自転車の継続的な使用が、中高齢者の動作の機敏さ改善に効果を持つか否かを検証することであった。被験者7名(男性3名、女性4名;平均年齢66.1歳)に対して以下の研究を行った。 1.問診の後、被験者の体力測定および歩行機能、敏捷性に関わる運動機能測定を行った。 2.被験者が普段使用している自転車と同じサイズの自転車(内装3段変速付)を準備し、各被験者に貸し出し、3段変速の"標準"位置にギアを固定した後、約1ヶ月間、日常生活において普段どおりの乗り方で自転車を使用させた(標準ギア期間とした)。自転車には実際にどのような走り方をしたかを測定するためのパワーキット(走行速度、距離、心拍数記録)とGPS装置(経度、緯度、正確な時刻を記録)を取り付け、各種データを記録した。 3.標準ギア期間終了後、1と同じ運動機能測定を行った。 4.上記測定の終わった被験者のギアを高回転用(軽いギア)に固定した後、引き続き、被験者に買し出し、普段どおりの自転車の使い方を継続させた(高速ギア期間とした)。 5.高速ギア期間終了後、1と同じ運動機能測定を行った。 研究結果 標準ギアを軽ギアに変えることで平均走行速度は有意に低下したが、逆にペダル回転数は有意に増加(24%)した。昨年同様、高速ギア期間終了後には敏捷性評価項目(立位前後移動運動)に有意な改善が認められ、ギア比の小さい自転車使用が日常的に素早い動きを引き出すこと、その結果として敏捷性回復がもたらされることが再確認できた。本年度は更に、上り勾配のある坂道を標準ギアと軽ギアを用いて走行した直後の血中乳酸濃度を測定した。軽ギアによる走行後に通常ギアよりも高い値が確認され、軽ギアの使用が、筋萎縮による筋力低下をより抑制する可能性が示された。
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