研究概要 |
微生物はあらゆる環境に存在し,私たちを取り囲む大気中にも浮遊している.大気中に浮遊する微生物は風などの大気現象により受動的に,広範囲に拡散していくため,微生物を含めた様々な粒子が風に乗って国内に飛来してきていると考えられる.多量の微生物が移動している場合,これを検疫では対処できない微生物の越境問題として捉え,国内の生態系に与える影響を考えていく必要がある. そこで本研究では,大気現象による微生物の移動の現状を理解しそのリスクを評価するために,まず降雨とともに運ばれる微生物の現存量およびその生理活性(生死),群集構造を分子微生物生態学的手法を用いて明らかにすることを目的とした.本年度は前年度の検討結果をふまえて,雨水中の微生物の現存量を測定するとともに,その群集構造解析を行った.また,これらの結果をもとに,降雨にともなう微生物の移動量,降雨水中の微生物群集構造の変化の要因について考察した.以下に得られた結果をまとめた. 1)雨水中には培養可能な真菌が細菌の10倍近く存在することがわかった. 2)サンプリング期間を通して細菌の群集構造が大きく変化していたのに対し,真菌には常に存在する種が見られた. 3)雨水中の細菌の群集構造は,真菌に比べて,地上の影響を大きく受けている可能性が考えられた. 4)雨水中の細菌や真菌には,日和見感染症の原因菌や植物病原菌も含まれていた. 5)本研究で決定した手法を用いて,雨水中の微生物量や属種の季節変化,地域変化を明らかにすることにより,降雨により移動する微生物の生態系への影響を考察できるものと考えられる.
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