研究概要 |
水溶液中の汚染有機化合物の除去方法として,光と金属触媒を利用して汚染物を水と二酸化炭素へと完全分解する方法が有望視されている。本研究では,色素メチレンブルー(MB)や環境ホルモンとして知られるビスフェノールA(BA),フタル酸ジエチル(DP)を分解対象物質に選び,この希薄水溶液に様々な遷移金属塩を加え,酸素雰囲気下で紫外光を照射し(Pyrexフィルター),その分解能力を調査した。また併せて既知のTiO2を使用する分解反応もこれと同一条件で行い,性能評価の基準とした。何れの化合物でもCe(NO3)3,FeCl3,Fe2(SO4)3がTiO2と同等かそれ以上の触媒活性を示すことが分かった。そこでFeCl3/UV系の反応をさらに詳細に検討した。この反応は水溶液のpHに大きく依存し,pH2-3で最大活性を示す。このpH領域では反応溶液のUV-visスペクトルで[Fe(III)(OH)]2+に帰属される300nm付近の吸収が強く観察される。従ってFe-OHの光励起で生ずるOHラジカルが活性種であると推察される。次に反応規模を大きくして,反応速度,全有機炭素量(TOC)測定,再使用試験を行った。MB分解の初回反応では速度比はFeCl3/TiO2=1.7となり,TOCも同等に80%減少する。しかし,引き続いてMBを加えて初期濃度に戻し,反応を繰り返すと速度比は0.5となり明らかに鉄触媒の活性は低下し,TOCも60%しか減少しなかった。BA,DPの分解では,初回の反応速度比はそれぞれFeCl3/TiO2=1.6,5.0となりFeの活性は優れているが,再使用ではほぼ1.0となった。この原因はおそらく光還元された2価のFeが3価に再酸化される過程が遅いためであると考えられる。今後酸化剤として酸素に加えて過酸化水素等を共存させれば,鉄触媒が本来有する触媒活性を有効利用できると思われる。
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