研究課題/領域番号 |
16652019
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研究種目 |
萌芽研究
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配分区分 | 補助金 |
研究分野 |
ヨーロッパ語系文学
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
中川 一雄 岐阜大学, 地域科学部, 教授 (10155674)
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研究期間 (年度) |
2004 – 2005
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研究課題ステータス |
完了 (2005年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2005年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2004年度: 1,200千円 (直接経費: 1,200千円)
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キーワード | 近世英文学 / アレクザンダー・ポウプ / 表象文化 / 表としての「川・水」 / 「水」の詩人 / 帝国主義 / ポスト・コロニアリズム / 近世英文字 / アレグザンダー・ポウプ / 表象としての「川」 |
研究概要 |
以下の概要は、2年間渡って行われた本研究の「全体報告」である。 17世紀中葉から18世紀全体にかけての「長い18世紀」を対象とし、まずは、ジョン・デナムやジョン・ドライデン、そしてアレクザンダー・ポウプら「メイジャー」な詩人たちのテクストにおける「川」表象を分析・検討した。これらの風景詩や都市風刺詩、田園詩を分析するなかから,テムズ川を中心とした都市型河川が素材となり、重商主義国家として膨張を続けるイングランドへの素朴な礼賛が、批判的に諧謔を込めて「帝国主義的膨張」を容認していくという史的・構造的変遷を確認した。 と同時に、ベン・ジョンソンのカントリーハウス・ポエトリーを最初の史的規範として、ジョン・テイラーやジョン・アーバスノット、そしてスティーブン・ダックらいわば「マイナー」な詩人たちが描く田園を流れる「川・水」表象が意味する「反帝国的・親田園的」な「生命の豊かな水」の諸相も探求した。 内戦や革命を経験した17世紀や(植民地)戦争の時代として揺れ動いた18世紀全体を通して、結局ジェントリー層が社会の変わらぬ支配者として存在したことにより、また交易を中心とした重商国家としてイングランドが世界に膨張していったことにより、「古き良きイングランド」という文化的トポスが「新しき(経済的には)豊かなイングランド」という支配的なイデオロギーが勢いを増すなかで命脈を保っていったことに確認し、あわせてこの田園の「豊かな水」、村落共同体の「生命の水」が、後の18世紀後半以降顕著となる「緑の世界」における理想的な「水」に対する切実な希求に結びついていくことも確認した。つまり、ロマン派の「水」の源流を確認できたと思う。 このような「水」に関する文化史的変遷、文化的振幅を表象したのがポウプのテクスト群であることも検討した。この点でポウプの存在は限りなく大きいと言えるが、しかし、ポウプの「川」は支配的膨張イデオロギーを有しているがため、ロマン派の詩人たちと比べてその社会批判には限界があったことも確認できた。また、スティーブン・ダックやジョン・クレアを例に出せば明瞭となるのだが、ポウプもワーズワースらロマンは詩人たちも庶民・農民の「労働」という観点が表層的であり、その結果豊かに描写される「水」も「癒しの水」として観念的に、つまり精神的創造物として存在する傾向があることを把握した。さらに言えば、やはり社会批判としては限界あるものの、ロマン派への橋渡しとして機能し、また近代化の過程で抑圧された搾取されていく庶民・農民への哀惜的共鳴を表したのが、ジェイムズ・トムソンの詩テクストであったことも確認できた。
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