研究概要 |
世界中に121種類の手話が存在し(Ethnologue2006),このうちアフリカで話されている手話は命名されているものが25種である。しかし,この数字は実態を十分に把握しているとは考えにくい。それは,国の数や人口の点からみてほぼ同じ規模のヨーロッパ地域で36種類が報告されていることから,アフリカにおける手話の調査が十分に行われていないことが原因であると考えられるからである。亀井は,まだ名前が確定していない手話10例を報告した。アフリカの手話の歴史と現状に関して今後調査が進めば,ヨーロッパ以上に多くの種類の手話が報告される可能性が高い。本研究では,宮本はケニア手話の語彙と基礎的統語構造の調査,亀井はフランス語圏西アフリカの手話言語の動態史の分析,そしてPhilipsはメディアにおけるナイジェリア手話の使用実態調査をそれぞれ実施した。その結果,アメリカ手話の影響がかなり広い範囲で確認された。聞こえる子供たちが家庭の中で親の言語を聞いて覚えるのとは異なり,ろう児の多くは,ろう学校や地域のろう者の集まりの中で手話を覚える。ろう児たちにとって学校は第一言語の獲得に大きな意味を持つ。従って,ろう学校でどんな手話が使われているかがそれぞれの地域の手話の種類を決めていくこととなる。西アフリカにおいては,A・J・フォスター(アメリカ手話の話者)とその弟子たちによるろう者のためのろう者による教育が大きな影響を及ぼしたことがわかった。一方,東アフリカのケニア手話にもアメリカ手話からの借用語彙が多くみられるが,その経緯はまだ調査中である。今後さらにアフリカの諸手話言語の形成過程を視野に入れて記述研究を進める予定である。アフリカの手話の分布やありようがさらに分かるようになると,人間の言語能力の解明に大きな責献ができるはずである。
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