研究概要 |
本研究では,東チベット地域の地名と地理,および言語分布に関する諸資料を収集し,分析を行なった. ■文献調査 甘孜(ガンヅェ)藏(チベット)族自治州および阿(アパ)藏(チベット)族羌(チアン)族自治州の各県ごとに編集された『地名録』を調査して漢語による音訳表記の地名と民族語の対応ならびにその意味についての基本的な記述資料を収集した.昨年につづいて中国四川省の古書籍を扱う書店を通じて出版されている『地名録』の一部を購入することができたので,現地踏査を行なったいくつかの県と幹線道路を取上げて,関連する地名の解析に必要なデータの抽出作業を行った. ■資料の分析 民国時代に作製された東チベヅトの地図を精査し,現在の地名との比較のもと,重要ないくつかの地点についてその漢字表記とチベット語との対応を調査した.その結果,ムニャ語の分布域の地名と20世紀初頭にヨーロッパの探検家が残した記録にみえるリュズ語の調査地点を明らかにすることができた.清朝時代に東チベット地域の言語の語彙を記録した「西番詳語」と称される一連の資料の巻首記載されている言語の分布地域の漢字表記の地名について,収集した『地名録』中のデータ,歴史的な地方誌資料ならびに地図資料を対照しつつ同定を試みたが,一部の地名について同定できたものの,すべてを明らかにすることは至らなかった.今後もさらに資料の収集に努め,研究の発展的な展開を期したい.分布地域の地名データの解析と平行して,収集を進めていた言語の分布情報にかんする資料にもとづき,東チベットの言語分布図を作成した. ■西番譯語の研究 『西番譯語』中に清代のリュズ語(チベット系川西民族走廊諸語のひとつ)を記録した資料があり,本研究で収集した資料ならびに現地調査のデータを利用して,『譯語』中に記録された分布地域ならびに当該語の語彙740語を分析し,現代語との対応を調査した.
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