研究概要 |
本研究は,結果構文,二重目的語構文,中間構文,場所倒置構文,使役移動構文など英語のさまざまな構文を対象に,そこで観察される多様な言語現象を,意味役割理論の観点から分析を行なった。その主な成果は2005年に筑波大学に提出された学位論文Thematic Structure : A Theory of Argument Linking and Comparative Syntaxにまとめられている。本年度は,この研究を応用する形で,英語の接頭辞over-の分析を集中的に行なった。動詞に付加されるover-には,「〜を超える」という物理空間的意味をもつ場合(overrun the line, overshoot the targetなど)と,「過剰」の意味をもつ場合(overeat oneself, overbuild the cityなど)の2つがあることが知られている。本研究では,この2つの意味用法について,前者はrun over the lineやshoot the missile over the targetなどの表現に現れる前置詞のoverが動詞に組み入れられたものであり,一方,後者はeat oneself overfullやbuild the city overcrowdedなどの結果構文に現れるoverと関係付けられるべきものである旨の提案を行なった。すなわち,前者のover-は位置変化を表す(使役)移動構文との関連で捉えられるのに対して,後者のover-は状態変化を表す結果構文との関連で捉えられるべき接頭辞であるという特徴付けである。このような捉え方をすることにより,「〜を超える」と「過剰」という2つの意味がなぜ生まれるのかという問題に加えて,両者のover-Vが示す下位範疇化特性の相違についても,自然な説明が与えられるという利点が得られる。この分析は,「接頭辞over-の付加と項の継承について」と題する論文にまとめられた。
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