本研究の目的は20世紀初期に行われた朝鮮の民俗調査資料の価値を評価することである。研究の対象は鮎具房之進、鳥居竜蔵、李能和によって実施された朝鮮の巫俗調査であり、1900-1910年代におけるこれらの朝鮮民俗研究は主に巫俗に集中していた。特に鮎具房之進、鳥居竜蔵による調査は初めての試みであり、朝鮮巫俗を本格的な学術研究として取り上げたことでもその意義が大きい。 まず、鮎具房之進の「韓国に於ける薩満教習俗」(『韓国研究会談話録』3、韓国研究会、1903、pp.48-76)では全般的に朝鮮巫俗の神名称、男女巫の区分、呪術の方法、儒仏混合方式、巫俗的な意識と生活方式の関係を明らかにしている。この文献は神々の名称を具体的に記述しており、貴重な資料で、その価値が非常に大きい。また、巫俗的な観点から人材登用、禁忌などを明確に解析した。朝鮮の祭礼は表面的に儒教的特徴が強く現れるが、その中に内在している精神的な世界の大部分が巫俗的な思想を内包していると主張した。しかし、このような特徴があるにもかかわらず、研究の対象地域と調査時期、調査方法などが不明確であるため、資料自体に対する信頼度が低いという限界がある。 次に鳥居竜蔵の「朝鮮の巫に就いて」(『東亜之光』第六巻第十一号、東亜協会、1913、pp.17-26)では巫の地域的分布、芸能方式、巫の役割などについて述べている。朝鮮の‘咸興'を中心に南側を南方系、その上側を北方系、そしてその間を中間地帯に設定し、朝鮮の巫を大きく三つの類型に分けた。この文献は実際に現場調査を行った資料として極めて重要な価値を持っている。例えば実際に行われた儀式におけるパフォーマンスである3人1組の踊りと演奏方式を生々しく表現している。しかし、このように現場調査に基づいた記述にもかかわらず、データの量的・質的不足で、客観性の欠如による短編的な記述や論理的な飛躍が現れており調査の限界がある。 最後に李能和の「朝鮮巫俗考」(『啓明』19号、啓明倶楽部、1927、pp.1-85)は100種余りの膨大な文献調査を通して朝鮮巫俗の全般的な理解を目的にした研究である。朝鮮巫俗の由来、風俗、巫歌、儀式の種類と特徴、全国的な分布と様相までを詳しく述べている。鮎具房之進、鳥居竜蔵に比べると二人の限界という指摘された研究地域と時期、調査方法などがある程度見直されたと言えるが、文献中心的な論述に偏っている。 結局、鮎具房之進、鳥居竜蔵の資料が高く評価できるのは1900-1910年代において実際に朝鮮の巫俗現場で行われたパフォーマンスを記録した数少ない資料であることである。当代の巫俗現場における具体的な記録資料が殆ど現存しないため、非常に貴重な資料であることは間違いない。李能和の資料は韓国人による最初の本格的な巫俗研究としてその価値が高い。以上の三人の研究資料は後代の研究者である村山智順、秋葉隆の論文で頻繁に引用されていることから研究史の観点からも韓国最初の巫俗資料として非常に大きな意味があると思われる。
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