研究概要 |
本研究(計画)の最終目標は,通信制高等学校に通学する不登校生徒の社会的適応と社会参加を促進するための心理教育プログラムを開発・実践し,その効果を査定することにある。本年度はその最終年度にあたる。前年度までに実施された授業プログラムの効果検証の結果によれば,円滑な対人関係を実現するために必要とされる基盤となる社会的スキルに関してはその増進が確認されたが,自己効力感とか自尊感情といった社会参加に必要とされる特性に関しては良い方向への向上が認められなかった。本年度はこの点の反省も踏まえて,職業選択も含めた将来に向けての進路選択を題材に,ロールプレイを中心とした,より具体的な授業プログラムを立案した。全部で6回構成の授業プログラムであった。最初の2回はこれまでの復習を兼ねて,自分を知り,自分の「生き方の価値観」を確認する作業(ワークブック,集団作業と討議)を行わせた。その後の2回では,現場で働いている社会人(ボランティア)を講師に迎えて,生徒たちと「働くこと」について討議させたり,具体的な社会場面を想定したロールプレイをさせたりして,進路選択や対人関係スキルの大切さを,より現実的で身近なものとして感じ取らせ,考えさせた。最後の2回は,「意思決定スキル」に関するワークショップを行い,それに基づいて自らのライフ・プランを作成させ,報告させた。 質問紙(自記式)による効果査定の結果によれば,教材だけを自学自習した通信制課程の生徒や授業を全く受けることのなかった全日制課程の生徒に比べて,自己効力感に関する評定値が前年度に比べて顕著に向上していた。また,共感性とか他者の視点の取得とか対人関係スキルにかかわる諸特性は前年度同様,他の対照群の生徒たちに比べて変動が少なく,安定した結果を維持していた。個別面接においてもこのことは裏づけられた。他方,自尊感情に関しては,質問紙ならびに個別面接の結果からは残念ながら改善の兆候を見いだすことができなかった。自尊感情を醸成するためには,ロールプレイ場面ではなく,家族や周囲からの支援も含めた現実場面における成功体験が必要であるという結論に至り,今後の課題として残された。
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