研究概要 |
本研究の目的は,現在の線形計算アルゴリズムの主流であるクリロフ部分空間法(共役勾配法等)に,収束が遅いため,昨今顧みられることのなかった定常反復法(SOR法等)を組み込んで,より高速な線形計算アルゴリズムを開発することである.本年度も昨年度に引き続いて,連立1次方程式の数値解法にかぎり,研究を進めた. 具体的には,クリロフ部分空間法(ペトロフ・ガレルキン方式に基づく解法系(Bi-CG法,CGS法,Bi-CGstab法,Bi-CGstab2法,GPBi-CG法,GPBi-CG(ω)法),最小残差方式に基づく解法系(GMRES(k)法,GCR(k)法,QMR法))に,前年度は用いなかったADIによる前処理を組み入れた.しかし,ADI法はパラメータ設定が難しく,収束が非常に速くなる場合もあるが,逆もあり,頑健性に欠けるという結果となった.前年度の結果も踏まえると,実装の簡便さ,およびその頑健性からすると,反復回数一定のSOR法を前処理に用いるのが最も有効であるという結論となる. 本年度は,基盤になるクリロフ部分空間法に関する研究も進めた.具体的には,対称行列用解法の共役残差法を非対称行列用に拡張した。従来は,共役残差法を,最小残差方式に基づく解法系と位置づけ,非対称行列用に拡張し,GCR法などが得られていた.本研究では,共役残差法を,ペトロフ・ガレルキン方式に基づく解法系として位置づけ,その非対称版(Bi-CR法と名づけた)を得ることに成功した.さらに,数値実験を通じてではあるが,ペトロフ・ガレルキン方式に基づく解法系の大本に当たるBi-CG法よりも良い収束性を示すことも確認した.
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