研究概要 |
昨年度は,脂質2分子膜に関して,分子シミュレーションの粗視化手法の一つである散逸粒子動力学(DPD)法により計算コードを構築した.本年度は昨年度得られたコードをもとに,DPD法による計算をさらに進め,分子動力学計算および実験結果との比較を通して,DPD法による結果の妥当性について詳細な検討を行い,以下の結果を得た. ・DPD法による計算結果は,膜面内の拡散係数に関しては実験値およびMD法の計算結果と良好な一致を示す. ・緩和時間と関連する回転相関関数に関して,疎水基の部分はMD法の結果と良好な一致を示すのに対し,親水基の部分は水分子の粗視化の影響により誤差が大きくなり,緩和時間を短く評価する傾向がある. ・膜面の熱揺らぎに対するスペクトル解析の結果は,低波数側において連続体理論より導かれる理論式に漸近する傾向を示し,さらにその結果を用いて見積もった曲げ剛性係数は実験結果と良好な一致を示す. さらに,より粗視化されたDPD粒子を用いて,リポソームの形成とせん断流中における変形挙動のシミュレーションを行い,自発的にリポソームの形成,分裂が引き起こされることを示し,本手法が生体膜の融合現象を解析するために有効なツールとなることを示した.
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