研究概要 |
従来から,抵抗低減剤としては水溶性高分子や界面活性剤等が良く知られており,それら水溶液の流れに関しては多くの研究がある.特に,希薄な高分子溶液の抵抗減少効果はトムズ効果として良く知られている.しかしながら,これらは人工生成物であり,管路が開放型である場合は環境に大きな負荷を与えることになる.よって,本研究は環境に負荷を与えない抵抗低減剤として微生物を含む麹菌の培養液に注目し,試作した円管内流動抵抗測定装置を用いてその流動の特性を実験的に明らかにしたものである.今年度の研究成果としては以下のようにまとめられる. (1)乾燥麹を水で培養した水溶液を作成し、その粘性挙動はニュートン流体と見なし得ること、さらに円管の管摩擦係数が乱流域で最大約40%低減する新しい抵抗減少効果を明らかにした. (2)溶液の劣化実験及び顕微鏡観察によって、菌糸や分生胞子が流れの乱れに影響していることを明らかにし,そのメカニズムを考察する上で培養実験による現象の変化を把握する必要性を指摘した. (3)麹菌水溶液のもつ流動特性との比較を行なうための基礎的データーである,希薄高分子溶液や界面活性剤水溶液の回転二重円筒間内流れや円柱周りの流れの特性を実験的及び解析的に調べ,遷移や乱流の流れに及ぼすそれら添加剤の影響を明らかにした. これらは本研究によって初めて明らかにされたものであり,その研究成果は国内外で開催された学会・国際会議で発表された.わが国は麹菌を使った食品を作る多くの発酵工場があり,麹菌の種類も多い.また,流体力学における乱流の解明は21世紀の大きな課題であると言える.本研究は流体抵抗低減への工業的応用のみならず,微生物を含む流れの生物流体力学の新しい視点とその問題を調べる研究対象として工学的にも注目される.今後,本抵抗減少効果の特性,最適条件及びそのメカニズムの解明を行なう必要がある.
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