研究概要 |
本年度は,所要時間の不確実性を確率分布により表現するという立場から,実所要時間分布から認知所要時間分布を推定する手法を開発した.実所要時間分布と認知所要時間分布との関係性を記述する有効な数理モデルとしてあげられるのが,Kahneman and TverskyやPrelecにより提案されているウエイト関数である.ウエイト関数は,「不確実性下において意思決定者は,実際に生起する確率をそのまま認知している訳ではなく,何らかのバイアスを持って認知している」ことを数理モデルで表現するものである.ウエイト関数を用いることにより,不確実性に対する態度を記述することが可能であり,パラメータ推定値から実所要時間分布がどのようなバイアスを持って認知されているのかを明らかにすることが可能となる. このウエイト関数を用いて,昨年度実施したダイアリーアンケート調査ならびに今年度実施した室内実験のデータにより,実所要時間の平均値・標準偏差と認知所要時間から認知所要時間分布を推定した.Kahneman and Tversky型ウエイト関数・Prelec型ウエイト関数ともに,そのパラメータ推定結果からは次の知見を得た:(1)早い所要時間の生起確率は実際よりも小さく認知する,(2)遅い所要時間の生起確率は実際よりも大きく認知する,(3)平均値付近の生起確率は実際よりも大きめに認知される.「所要時間が大きくなるほどその生起確率を大きく認知する」「実所要時間平均値周辺の生起確率は実際よりも大きく認知する」というように形で通勤者が不確実性を認知しているという結果は,現実問題として制約時刻の存在する通勤行動では妥当な結果であり,意思決定者の認識の歪みを考慮することで,交通行動の解釈の幅を広げると考えられる.
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