研究概要 |
植物根による根圏の酸化機能は,根から放出される酵素類,ラジカル,有機酸,アミノ酸,などの種々の物質の放出と分泌作用と深く関連している。薬用植物の一種であるムラサキの根にはナフトキノン誘導体の一種で有色のシコニン類が蓄積する。この物質は電子の授受作用を有することから,制菌作用をはじめ種々の生理活性を有することが知られている。土壌で栽培したムラサキ根におけるシコニンの動態は次のようであった。幼根においては根冠細胞,表皮,皮層,内皮に蓄積し,これらの細胞の脱落とともに根圏に放出される。つぎに根の肥大とともに一次・二次周皮に蓄積が進行する。この過程で周皮のアポプラストに蓄積したシコニンが根圏に分泌・放出される。さらに肥大が進むと,周皮が褶曲して組織表面積が増大し,シコニンの蓄積が増加する。いっぽう損傷を受けた組織において周皮が形成され,そこにもシコニンが蓄積する。これとは別に,中心柱内部の導管などに接する組織においてもシコニンの蓄積が部分的に認められた。以上のことからシコニンを蓄積する組織は表皮や周皮などの厚壁化する防御組織が主であるが,これ以外の組織においても認められることから,リグニンなどの蓄積による細胞壁の厚壁化と密接な関係を持つことが示唆された。またシコニンは根系内において不均一に分布しており,地表から15〜25cmの部位で最も高い含有率を示した。 薬用植物のカンゾウは肥大した根にグリチルリチンを蓄積する。この主根における濃度は,地表に近い部位で高く,深くなるに従い低下することを明らかにした。また主根におけるグリチルリチン濃度と15N自然存在比とが密接な関連を有することが推定された。
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