研究概要 |
公園の樹木の一斉落葉や朝礼時の児童に刺激被害を与えるなど,「光化学スモッグ(光化学オキシダント)」が社会的に注目されるようになったのは1970年代に入ってからである。光化学オキシダントの成分はオゾンが90%を占め,その強い酸化力は植物や動物に深刻な悪影響を及ぼすことが明らかとなっている。排出源は,自動車や工場であり,各種の法規制が設けられているが,都市周辺部では依然として発生が頻発している。光化学オキシダントは日差しが強く,温暖で風の弱い気象条件下で形成されやすく,丁度その時期は重要な夏作物の生育期と重なっている。オゾンが発生すると,落葉や花の脱色素が生じたり,さらには乾物生産や収量の低下が付随する。2004年度は,2003年度に引き続き水稲を研究材料として,警報発令程度の濃度(0.1,0.3ppm)のオゾンが光合成,呼吸,乾物生産および収量生産に及ぼす影響を再度確認し,さらに,近年その濃度上昇が地球温暖化をもたらすと問題視されている大気レベルの二倍程度の二酸化炭素を同時暴露して,二者による相互作用を解析した。その結果,オゾン単独暴露は(1)イネの光合成機能を阻害し,(2)暴露1日後に葉の可視被害が出現すること,(3)被害の程度は下位葉で大きく未展葉は被害を受けにくいこと,(4)やがて乾物生産と収量の低下もたらすことを明らかにした。また,(5)光合成の阻害には光合成の鍵酵素であるRubiscoの減少が伴い,(6)光合成色素であるクロロフィルの減少はそれよりも遅れて,可視被害が発現する時と重なっていることを明らかにした。しかし,高二酸化炭素濃度により(1)気孔開度が低下し,オゾンの葉内への侵入が阻害されて被害が軽減され,(2)障害の修復とみられる呼吸が昂進し,(3)不稔歩合の上昇が抑制され,(4)葉内の抗酸化物レベルとの関連も重要なこと等,相互作用に関して今後も解明を進めるべき問題が多々残った。
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