研究概要 |
昨年度は,長崎大学では1つのダイポールアンテナまたはホーンアンテナから電磁波を角材に照射し,角材の周りに配置した7つのダイポールアンテナによって電磁波を受信し,散乱波によって木材の水分分布を調査する可能性を示した.一方,静岡大学では,8つのホーンアンテナを円形に等間隔で配置した測定装置を作成し,測定装置の精度について議論した.昨年度の実験結果から,送信アンテナにはホーンアンテナがよいことが分かった.平成17年度は静岡大学で実験したデータを元にして数値計算と測定結果とを比較し,水分検出の可能性について詳細に議論し,将来の測定装置の構想を提案した.以下に今年度の研究結果を列挙する. (1)静岡大学が作成した8つのホーンアンテナからなる水分検出装置の中央に何も置かずに,1つの送信アンテナから照射された電磁波を周りの7つの受信アンテナで受信した.送信アンテナに対して正対している受信アンテナとその両隣の受信アンテナの合計3つのアンテナでは対照的な結果が得られるが,他の受信アンテナでは受信電界が非常に小さくなり,対称性を得ることができなかった.原因としては,アンテナの配置の非対称性だけでなく,水分検出測定装置内で電波吸収体によって吸収できなかった電磁波の反射による影響だと考えられる.そこで,静岡大学では水分検出測定装置内に様々な角材を配置してそれら3つのアンテナによる受信電界を測定し,角材の種類による受信強度の変化について議論した. (2)長崎大学では,静岡大学で実験したデータと数値シミュレーションの結果を比較検討した.ホーンアンテナから照射された指向性をもった電磁波を数値解析で実現するために,メインロブだけをガウスビームで近似し,得られたガウスビームを入射波としてモーメント法を用いて散乱界を数値計算した.送信アンテナに正対する受信アンテナとその両隣の受信アンテナの位置では測定結果と計算結果が良く一致することを確かめた. (3)受信アンテナをホーンアンテナにすることにより受信電界のゲインは増加するが,放射パターンを詳細に議論することはできない.しかし,被測定物を中心とした左右40度ずつの受信電界強度分布から,被測定物の比誘電率分布を推定できる可能性を明らかにした.したがって,今後は1つのホーンアンテナから電磁波を照射し,送信アンテナに対して正対した位置を中心に左右40度程度に均等に配置した複数のダイポールアンテナによって電磁波を受信することにより散乱パターンを観測し,これによって水分分布の検出を行う方法について議論する予定である.
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