研究概要 |
イヌの全悪性腫瘍の20%にのぼる肥満細胞腫の腫瘍化機構を、増殖因子受容体の自己活性化および遺伝子変異、癌抑制遺伝子の機能低下などに着目して解析を行い、肥満細胞腫の新たな生物学的分類と抗がん治療プロトコールの確立の基礎を得ることを目的としている。得られた結果は以下のとおりである。 1)臨床症例から得られた50イヌ肥満細胞腫検体より遺伝子DNAを抽出し、c-kitレセプター遺伝子のうち特に細胞膜直下juxtamembrane領域およびチロシンキナーゼ領域に特異的なプライマーを用いたPolymerase chain reaction(PCR)産物を材料に遺伝子配列を解析した結果,約80%には突変変異は存在しないこと,のこり20%はすべて細胞膜直下juxtamembrane領域に突然変異のあることが明らかとなった。 2)ウエスタンブロット法によって,多くの検体にはc-kitレセプターのチロシンキナーゼの活性化が確認された。 3)細胞内シグナル分子としてはMAPキナーゼファミリーであるAktが強く活性化していることが判明した。 4)全検体において,癌抑制遺伝子p53の発現低下あるいは無発現が確認された。一方,炎症性サイトカインの重要な転写因子であるNF-κBが恒常的に発現・活性化していることが明確となり,その特異的阻害剤が増殖阻止に有効であることが明らかとなった。 以上の結果より,ヒトの肥満細胞腫にみられる様な突然変異とは異なり,イヌにおけるc-kitレセプター遺伝子の異常は約20%にとどまり,ほとんどがそれ以外の異常である事が明らかになるとともに,増殖にはNF-κBの恒常的な活性化が必要であることが実証された。
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