研究概要 |
これまでにテトラクロロエチレン等の脂肪族塩素化合物をhalorespiration呼吸系によって嫌気的脱塩素反応を行う微生物の存在が解明されてきたが、芳香族脱塩素化合物の嫌気的脱塩素反応を行う嫌気微生物群集の解析は、多くの研究者の試みにも関わらずなかなか解明するに至っていない。芳香族塩素化合物の嫌気的分解も脱塩素反応(halorespiration)と考えられるが、分解活性発現のための共生系(syntrophy)の維持や有害産物蓄積の抑制は難しく、その利用技術の開発は残された課題となっている。本研究では、芳香族塩素化合物の脱塩素微生物共同体の実体解明を目的とし、その特性を明らかにするとともに利用技術の端緒を拓くことを目指した。ペンタクロロフェノールおよびポリ塩化ビフェニルを対象化合物とし、その活性の安定維持方法の確立を行うとともに、酸化剤、基質および阻害剤に対する特性と呼吸鎖キノン解析と16S-リボソームRNA遺伝子解析で検出される微生物群集構造を指標に、脱塩素微生物群を集積した。 嫌気性微生物群の脱塩素活性を、水田土壌培地を用いることで安定的に長期間維持することに成功した。ペンタクロロフェノールの場合は、液体培養系に移すと活性を失った。水田土壌培養系で集積をかけ、集積微生物群の多相解析から、ペンタクロロフェノール分解微生物群中の主要微生物がFirmicutes門の微生物群であることを明らかにした。脱塩素経路は、PCP→2,3,4,5-tetrachlorophenol→3,4,5-trichlorophenol→3,5-dichlorophenol→3-chlorophenol→phenolで、オルト位、パラ位、メタ位の順で脱塩素した。ポリ塩化ビフェニルの場合は、分解微生物群の集積が十分でなく主たる微生物群は解明できなかったが、脱塩素活性に関与すると思われるDechalococcoides類縁微生物群が存在を明らかにした。また、担体の工夫により、PCB分解活性を劇的に高めることに成功し、今後の脱塩素微生物利用技術への端緒を開いた。
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