研究概要 |
本研究の目的はマスト細胞が結合組織基底膜に接着している現象の生理的役割の解明のために、細胞接着と細胞増殖、分化、機能発現の相関を明らかにすることである。研究実施計画に基づき実験を行い,以下の研究成果を得た。 1.マスト細胞の基底膜成分への接着と細胞の増殖・分化に関する研究 増殖性マスト細胞株として、癌化マスト細胞(mastocytoma P-815 cells ; P-815)とマウス血液幹細胞由来培養マスト細胞(bone marrow-derived mast cells ; BMMC)を調製し、in vitro細胞培養系で約10^7個細胞をPGE2/EP4選択性アゴニストあるいは8-Br-cAMPで18時間処置すると,約20-40%の細胞がシャーレ壁に吸着させた細胞外マトリックス成分(フィブロネクチン>ラミニン>コラーゲンに接着した。非接着細胞に比して.接着細胞は大部分がG1期細胞で、その接着細胞はEDTA等で遊離細胞とするとS期細胞が増加し、増殖する。PGE2添加による細胞接着シグナルは、接着開始初期シグナルはPKA依存性反応であるが、接着を維持するシグナルはPKA非依存性のEpac-Rap1シグナルで、Ca2+/CaMに依存する反応が起きている。 2.マスト細胞の基底膜成分への接着とヒスタミン、サイトカイン等の発現制御に関する研究 PGE2刺激による接着マスト細胞は非接着細胞に比して増殖能は低下しているが、細胞機能は活性化していることがわかった。接着細胞のhistidine decarboxylase, IL-6, MCP9の発現とタンパクは増加していた。マウス背部皮下に空気嚢を作製し、空気嚢に注入したP-815細胞の結合組織基底膜への移行は,PGE2/EP4受容体依存性に起こることがわかった。これらの事実からマスト細胞は基底膜と相互作用することにより増殖、機能発現が調節されることが判明した。
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